面白いマーケティング情報を入手しました。
【AVISレンタカー事例】
1990年代の前半、AVISレンタカーは、顧客満足度調査のスコア下落(全米最下位)に悩んでいた。そこでニュージャージー州ニューアーク国際空港支店にExperienceEngineeringを導入した。その手法の基本は顧客の「レンタカー経験」である。受注後、隠密に調査チームが組織化された。
それを探るために(あらかじめ承諾&謝礼支払の前提で)顧客の腕時計や服に小型カメラ(録音機能付き)を仕組み、個々の顧客のレンタカー経験のすべてを記録した。顧客のボディ・ランゲージ、声の抑揚、言葉の選択などを記録し、その感情の変化を分析した。その感情のあり方を裏付けるため、顧客とレンタカー従業員の両方にデプス・インタビューを実施した。
おもしろいのは、その調査チームにはリサーチャーだけでなく、未来学者、心理学者、文化人類学者など人間を分析する「知」を結集しているところである。わたしのつたない消費者調査経験からすると、それはたいへんな重装備であり、各分野の専門家の指摘がぶつかり合うならば、とても興味深い。
その結果はAVISには驚きだったという。レンタカー屋のパンフレットにあるような「綺麗な車」「サービスの迅速さ」「挨拶の良さ」「装備の良さ」ではなく、ひたすら「旅行に伴うストレスや不安を取り除いて欲しい」というものであった。
【わたしの米国でのレンタカー体験】
わたしは短期(1.5年)の米国駐在をしたことがあるが、米国内で出張したことも多かったし、駐在後に訪れることもたびたびだったので、レンタカーにはエキスパート(自負)である。とはいえ駐車場からバックで出ると、右脳と左脳が逆転して、左側通行をすることもよくあった。レンタカーもレンタカー会社もまだヘコませたことはない。
国土の広い米国では、レンタカーなくては商談やミーティングが成立しない。だからなるべく早く予約車にたどり着き、鍵をもらい、レンタカープールから出て、目的地にゆく。慣れた地ならまだしも、始めての地では緊張する。空港によって、微妙に借りるシステムが違うこともあった。空港カウンターのレンタカー・チェックインは、単なるチェックで、実際に借りるにはバスに乗らねばならない。他国籍のわたしは尚不安になる。
たいて黒人の運転するレンタカー場への案内バス(それを間違いなく乗るのも緊張する)に乗り、AVISかHeartsかその他か、到着地を聞き分けながらバスに乗るのである。空港によっては、予約シートを渡すと、当該レンタカーの目の前までバスを走らせてくれたのでほっとした。そうでもない経験もあって実に心細かった。さらに返却するのにも、どのぐらい空港への時間がかかるかわからないなど、緊張することが多かった。
AIVSの「経験調査」の場合、わたしも感じたようなストレスを解消するために、レンタカーの返却場所の入口に、フライトの出発時間・ゲート案内を示すビデオの設置、荷物の移動をしやすくする設備面の工夫や、ビジネスセンター設置などの改良を行った。その結果、米国内空港の顧客満足度調査でトップに躍り出たという。調査前は最下位だったのが飛躍的である。
【事例の受け止め方】
以上は米国での事例とわたしの経験であり、日本のレンタカーシステムはかなり違うので、そのまま当てはめられない。だがこのリサーチ事例を自社のサービスに適用されたことを想像してみよう。おそらくかなりの汗をかくことだと思う。
顧客視点を持つこと、顧客を研究することは、「言うは易し行うは難し」の代表的なことである。それはっふだんエンドユーザーに接しているか、接していないかには余り影響がないと思う。職業の違いもあまり影響がない。むしろ顧客心理感度の高低があるのだと思われる。自分の中の「職業経験」が、消費者視点にもどることを阻害しているのだろうか。