交通事故によって傷害(身体的損害)を受けた場合、その事故単独での傷害であれば損害賠償について、加害者と過失相殺を考慮しながら、話し合いで決めることができる。
しかし、それ以前の交通事故で被った傷害があり、それに加重された損害が発生したとき、加害者は損害のすべてを賠償する責任を負わなければならないか、という問題が生じる。
先の交通事故を一次事故とし、その後の事故を二次事故と区別して、賠償責任を考えたい。
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Xは二次事故で加害者Yの過失により後遺症を伴う頸部損傷の被害を受けた。
このため、XはYに対して治療費と休業補償を請求したところ、Xは二次事故の1か月前、一次事故で同じように頸部損傷の傷害を受けて通院加療中だった。
しかも二次事故で受けた傷害の程度は、一次事故での傷害に比べ軽いことが分かったため、Yは「負担すべき損害額は、一次事故の損害分を減額すべき」と主張した。
一審の東京地裁八王子支部は「Xの傷害は両方の事故が競合して生じたもの」と、2つの事故に「因果関係がある」と認定したが、損害額の減額は認めなかった。これを不服としたYは控訴。
二審の東京高裁は「Xの傷害は一次と二次の二つの事故に起因する」事実は否定せず、それぞれの事故がもたらした傷害の程度について、「一次が30%、二次を70%とするのが相当」と判示し、Yの減額(30%)を認定した。
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交通事故の損害は原因が競合して発生することが多々ある。
例えば、被害者の持病が原因であることもあれば、天災などの自然現象がある場合、あるいは第三者の行為によって加重されるなどが考えられる。
最近の交通事情を考えれば、先行車戸の衝突で放り出された被害者が、後続車に当てられて傷害が重度化するケースなどがある。
時間的にも場所的にも二つの事故が近接している場合は、その2つの事故の因果関係を立証するのは容易だが、近接性のない事故について因果関係を認められた事例は注目に値する。
ここでは2つの不法行為を包括した「競合的不法行為」を認定したといえる。
一般的には、両方の事故が傷害に与えた影響度に応じて、加害者間に割合を設けて分割責任を認める判例(大阪地裁、名古屋地裁など)が多い。
分割責任を認定する根拠として、相当因果関係とするか、過失相殺に関する民法第722条を類推適用するかは裁判官の裁量による。
いずれにしても競合する不法行為の影響度が、いずれの事故によるものかの判定は難しいのが現実だ。
法的には民法第709条に基づき、加害者は被害者に与えた損害を賠償すれば足りるが、物理的に証明できるとは限らず、そのために分担責任をどう算定するかが難しい。
具体的には、事故の態様や被害者の傷害の部位・程度、他の加害者による賠償の範囲などを総合的に判断し、負担割合が認定されると考えられる。
しかも、減額の対象も損害額全般とする必要はなく、別々の不法行為がある以上、治療費や逸失利益、慰謝料など項目別で考慮するのも一理あるといえる。